最強! 最凶?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


せっかくの桜花も週末の冷たい雨に毟られて、
千鳥が淵辺りが何とか見ごろを保っているよな案配だそうで。
何とも駆け足だった感の強い、今年の都心の桜だが、

 「せいっ!」

そんな花王も恥じらいそうな、
そりゃあ清楚で麗しき、まだ高校生だろう金髪色白なお嬢さんが、
それにしちゃあ ずんと勇ましい仕儀にその身を振るっておいで。
ウエストカットのジャケットに、箱ひだスカートに見せて実はキュロット、
そんな動きやすげなコーデュネイトも凛々しく映える、
引き締まった肢体を俊敏に動かすと。
ぶんっと上段から振り下ろしたポールが、
加速にたわんだ分だけは加減されての、だがだが結構な打撃となって、
向かい合っていた賊の手から、大きめ武骨なナイフをはたき落とす。
ぐあっと呻いた無頼の男が前のめりになったが、
だからといって、こちらはそこでなんて止まりはしない。
それはなめらかな弧を描き、ぐるんと回された長柄の得物を、
まるでチアリーダーが操る大きなフラッグよろしく、
ぶんぶんと自分の総身の左右へと、斜めに空を切るよに鮮やかに捌くと、
背後から突っ込んで来た気配に向け、
そりゃあ的確俊敏に振り向いて、文字通りの横殴り、
薙ぎ払い一閃で脾腹をしたたかに殴りつけ、それのみで仕留めるから恐ろしい。
片や、

 「……っ。」

両の手にスライド式の特殊警棒を握っているからか、
その双手をやや後方へ垂らしたままで駆ける、
こちらも金髪白面のお嬢さん。
すらりとした痩躯を
ミニスカートにも見えるチェニックと
パギンスの重ね着という機能的ないで立ちにくるみ込み。
数人ほどが立ち塞がる通路を
恐れもしないまま真っ向から突き進む彼女であり。

 「何だ、このガキはっ!」
 「知らねぇよっ。」

いかにもな武装や屈強な肢体をした男が飛び込んで来たというなら、
反発力も素晴らしく、否やもなしに突っ込んでって叩き伏せもするところ。
にこりと微笑って来られたならば、
やに下がって笑い返したかも知れぬ美人たちなだけに。
一体 何が起こっているのだろうかと、
ややもすれば混乱している面々らしかったものの、
そんな視野の先、
彼女の向こうで仲間らがあっけなくも叩き伏せられているのを見るにつけ、

 「と、ともかく、此処へは入れんなっ。」
 「おうっ。」

今はほぼ忘れ去られたも同然の、誰も寄り付かぬ倉庫街。
奥まったところの大倉庫に、
同じ組織の窃盗班が盗み集めた古美術品がうなっており。
迷路のようになった場所だし、主幹通路にはこうやって見張りも立っている以上、
たとえ警察関係のGメン捜査官でも、
そう簡単には潜入など出来ぬ首尾になっているその一角が、
こんな年端もいかない少女らの突撃に遭い、

 「ぐがっ!」
 「ぎゃあっ!」

振り下ろした鉄パイプをあっさりと掻いくぐられ、
間合いにすべり込んだまま、
ぐんとその身を深く沈めた鮮やかなステップの端っこで
顎下からアッパーカットを食った一人が引っ繰り返り。
それを視野へと収めつつ、だがだが体の動きは追いつけぬまま、
もう一人も成すすべなく、肩口をひっぱたかれて伸びており。

 「ヘイさん、この先でいいの?」

戦闘専任の双璧…というか、二枚看板な二人が振り向けば。
後から追って来た、
こちらもパーカージャケットに半パンを合わせ、
足元はデッキシューズという軽快ないで立ちのお嬢さんが、

 「ええ。
  この先のT字路になったところにある、
  大きな倉庫こそが大本営。」

手元にタブレットタイプのPCを据えて、
まるで本か地図帳扱いで開きつつ、
そこへ展開されているここいらの詳細図面をチェックしておいでなのは、
彼女らの作戦参謀にして、ツール調達の天才様で。

 「今の騒ぎで他のところから助っ人が来ないかなぁ。」

 「それはありませんね。
  監視カメラとかないからこその見張りでもあったんですし。」

せめてこいつらが、援軍頼むとか連絡してりゃあともかくと、
足元で伸びている見張り役を見下ろすと、

 「逆に言や、そういうのがないから
  私もデータが得られなくって、
  実行までにこんなに時間が掛かっちゃったんですし。」

ハッキングして情報を得るという、彼女の十八番が使えなかったため、
大外回りから物品や車両の移動状況を拾うという格好で、
何とか内部状況を把握したのだそうで。

 『それによると、運び出しが迫ってます。
  明日にも大型トレーラーを乗り付ける段取りが組まれているらしい。』

なので。
幹部らが取引相手との顔合わせに、
そして、故物管理&窃盗班が運び出しの段取り手配に、
それぞれ出てってる今のうち、

 「見張りの雑魚ども踏み倒し、大倉庫に風穴を空けてやらなくちゃ」

 「勇ましいお姉ちゃんたちだな、おい。」

ひなげしさんの台詞が終わり切らぬうち、覚えのない声が割り込んだ。
ハッとした金髪娘らが、それぞれの得物を身構えつつ背中合わせになって、

 「ヘイさんっ!」

自分たちの狭間へ駆け込めと、
それがいつもの最強ポジションであり、
不意を突かれたおりのシフトだったのだが、

  ……………え?

思いがけないとは正にこのこと、
敵は向かう先か若しくは左右から来ると、
平八の先読みからそうと断じていた彼女らだが。

 そいつは後方から近寄って来ており

 「見かけないスクーターが、
  コインパーキングに停まってたんでな。」

 「……っ。」

なかなか目端の利く奴が一応はいたようで、
恐らくはさっき伸した見張りの交替要員。
となると、不意打ちでない限りは腕っ節には覚えのある顔触れのはず。

 「ヘイさんっっ!」
 「…っっ!」

こう言うとそれはそれで彼女に失礼かもだが、
自分たちなら反射的に得物を繰り出して問答無用と叩きのめしているところ。
だが、戦闘よりも知略専任の彼女ゆえ、
こんな突発的な伏兵に襲われては二進も三進も行かぬだろう。
しかも相手の手には黒光りするピストルが見えもする。
そこまでに数歩ほどの間合いがあるのが恨めしく、
我が身への刃を向けられたような恐気がした七郎次と久蔵の二人が、
なればこそ凍りついたその視野のうちで、

 「………。」

そちらもまた総身が凍りついたかと思ったら、
何を思ったか…平八がパチンと指を鳴らしたその途端、

  パンッ、と

乾いた音が1つして。
ドラマや映画で聞かれる銃声は随分と大仰なのだそうで、
とんでもなく大型の銃でない限り、
実際のそれはタイヤがパンクしたような案外とあっけない音だとか。
嬉しかないがそんなのの実物とも対峙した覚えのあるお嬢様たち、
そこは自然な反射で一瞬身をすくめたが、目は逸らさぬ度胸がおさすが。

 だったので

向背から迫って来ていた男の手にあった銃が、
何だか妙な、
強いて言えばピンクのゴム風船に
すっぽりとくるまれてしまっているように見えたのが

 「…ヘイさん?」

何が起きたのか判らないからこそ、尚のこと不安だったりし。

 「なんだこりゃっ!」

当然、そんな目に遭ってるご本人が一番に驚いており、
ようよう見やれば、その手ごとすっぽりと、
風船どころじゃあない、ゴムの塊のようなもので覆われているらしくて。

 「ああ驚いた。
  でも盗品の銃をまんまもって出て来るとは、
  あんたたち本当に何にも訊いてませんね。」

こういう胡亂な手合いが相手なのだから、
ひょいと銃が出て来ることも、
本来だったら恐れなくちゃあいかんのだけれど。
倉庫街自体には利用者がいないから人が立ち入らぬが、
場所的には繁華街や港湾のごく近くなため、

 『銃声や罵声が立ったなら、
  港湾の保安関係者が様子見に来るはずです。』

それでなくとも、此処は某基地に近くて、
そのお国は世界規模にて とあるテロ組織への警戒態勢中。
ややこしい騒ぎが起きれば、
警察の行動へも、
表向きには協力の申請、
その実“たるんどる”とばかり首を突っ込んで来かねないとあって、
公安各所がピリピリしているそうで

 『…相変わらず、妙なことにばっか詳しいね、ひなげしさん。』

とは、後日に事情を聴いて呆れた良親さんの感想だが。
なので、自分たちでも特攻を仕掛けられようと踏んだひなげしさんだったのであり。

 「それって、
  Dr.善法寺の私物にあった“トリックシューター”ですからね。」

 「ちょっと待って、そんなものまで蔵物に入ってたの?」

合図を送ればこんな事態になるという、ややこしい仕掛けの銃だったようで。
つか、撃たれやしないと確信したからとはいえ、
今の態度はないんじゃないかと。

 「はあ…。」
 「……。」

白百合さんがその場へへなへなと座り込み、
紅ばらさんも胸元をぎゅうと押さえて苦しげな息をつく。

 あああ、心臓に悪いったら。
 〜〜〜〜。(同上)
 あ、失礼ですね。

危なかったには違いないじゃないですか。
だったら悲鳴くらい上げなさい。
紛らわしい…。
お、言いますね久蔵殿…と。
何とも可愛らしい(?)口喧嘩をしつつ、
それじゃあ、大倉庫へ向かいますかと、おーとこぶしを振り上げ、
ついでにややこしくも驚かしてくれた後追いの賊へは、
紅ばらさんが、見事な手刀で人事不省に追いやって。

 「…止めに入りますよ、勘兵衛様。」

どこぞかとスマホで連絡を取っていた誰か様、
真上の倉庫の屋根の上から、
いかにもしょっぱそうなお顔で見下ろしていた
一部始終だったそうでございます。





    〜Fine〜  14.04.07.


  *何かややこしいお話ですいません。
   乱闘になったら一番非力そうなヘイさんが、
   実は一番肝が座ってておっかないと、
   そんなシチュエーションをひょいと思いつきまして。
   いろんなツールにしても、
   不発だったら危ないこと この上ないものばっかなんですが、
   そこはお話だからということで。てへvv(おいおい)

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